Sommelier

ワイナリー訪問記レポ③Rue de Vin

そのワイナリーは、しなの鉄道田中駅から県道165号線を北東に車を走らせ、東御ワインチャペル、市役所を右手に住宅街を8分ほど走らせます。
道なりに田んぼや畑が広がるのどかな風景がしばらく続いたあとに東御市立祢津小学校が見えてきて、その小学校を超えたあたりから段々とゆるやかな坂道になります。
その坂道が山道になり、道の両脇に広がる林を抜けるとそこにはRue de Vinの世界があります。
ワイナリーの敷地には「カエルちゃん」の愛称で親しまれた90年代の青いルノーがあって、その敷地の角に静かに佇んでいる標識にはワイナリーの名前となった「Rue de Vin」の文字。
イメージカラーの青がアクセントになっている可愛らしい建物までのアプローチには芝生が広がり、ワイン樽の廃材で作った道と手すりがなんともおしゃれで。
まるでその一角だけがフランスの田舎みたいな風景に見えます。

いま現在、Rue de vinって長野のワイナリーのなかでどのへに位置するのだろうか。

まずやはり長野といえばシャトーメルシャンがあって。
サントリーの塩尻ワイナリー、そしてマンズワイン。
この大手資本の3ワイナリーが長野ワインを牽引してきたのではないかしら。
そしてアルカンヴィーニュの存在。
ヴィラディストを創設した玉村さんを筆頭に、新規就農を目指す人達を育てるための実践的栽培醸造経営講座を開設し、そこから多くの小規模生産者が育っています。

そのいずれも愛されるワインで、それぞれの人気の理由もわかるし、どのワイナリーも自分が思う最高に美味しいワインを造り、本気で日本にワインを根づかせるために頑張っています。


ではRue de Vinはというと、年間生産量20,000本を超える比較的ワインが購入しやすいワイナリーではあるものの、従業員が4人のちいさなワイナリー。
かれらが造るワインはじつはそれほど話題にはならないけれど、そのワインのおいしさには定評があってとても安心感がある。
そしてなぜあまり話題にならないかというと、それはコンクールにはださないから。
ワイン造りには賞をとるよりも大切なことがある、と先日お会いした時に小山さんはおっしゃってました。


代表の小山さんは少し白髪まじりの短髪で、銀縁の眼鏡に無精ひげ、それほど背は高くないものの体格もがっしりしているので、お会いするまでは強面なイメージがありました。
しかし、ブドウの栽培からワインの醸造のことまで丁寧にお話してくれて、その時はもう本当に楽しそうで。その笑顔がとてもかわいらしかったのが印象的です。
造っているワインはソーヴィニョン・ブランやピノ、メルロなど欧米系品種のもの。
そのスタイルは王道的でありながらも、しかし古臭いと言わせない時代感覚が大事で、そしてRue de Vinには、それのすべてがちゃんと備わっています。


じつは僕はRue de Vinについて大きく誤解していました。
どういうわけか小山さんに会うまでは、かれのワインって欧米品種しか使ってないというのもあるし、ワインの雰囲気からしても日本ワインっぽくなくて、例えばピノ・ノワールならブルゴーニュと同じ方法で栽培・醸造をしてるのかと思ってました。

それが小山さんのお話を聞くと、その栽培方法や醸造には欧米とはまったく違っていて。
でもたしかにそうだよね、だって日本とフランスとでは土地も違えば気候も違うし、降雨量も全然違う。
かれは本当に日本の土地にあっているのかを検証しながら、常識にとらわれず、ブドウに、ワインに向き合っています。
もっとも小山さんは、自身が培った経験やデータなどを理論的に考え、それをもとに実験したくなるようなちょっと冒険好きな精神をほどよく隠し、むしろ綺麗なワインに仕上げてるところがなんか大御所っぽいのですけれど。



しかも小山さんは、自分がワインを造りたいという想いだけではなく、きちんと産業としても成り立たせる環境づくりにも力をいれています。
東御の可能性を信じ、それをきちんと産業として成り立たせるために、かれの脳内の事業計画書には、ワイン事業を日本の文化にするための理論も構築されています。

「ワインショップに行けば買えて、安心できる美味しいワインを造っている、ちょっと高級な日本ワイン」というどことなくスマートなイメージでしたが、お会いしてお話を伺うことでその印象は大きく覆されました。
ワイナリーの目の前にある段々となった丘。その荒れ果てた、かつてはりんご畑だった耕作放棄地を開墾し、とても情熱を持ってワイン造りに励んでいます。
いままで何回も試行錯誤してデータを蓄積しながらその土地にあう栽培方法を見出し、いま現時点で最高に美味しいワインを造るための情熱を燃やしています。

Rue de Vinには大手資本のワイナリーとはまた違った形で日本ワインの可能性をひろげ、コンクールなどではなく、ちゃんと飲んで評価をしてもらうことを望む、そして産業として、事業として成り立たせようと日夜努力を惜しまず励んでいます。

小山さんにお会いして、そしてその熱い想いを聞かせてもらって僕は小山さんの大ファンになりました。
かれが作るワインが美味しいのは当たり前のことなんですね。

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