インターネットがない時代に生まれた僕から見た世界は、アメリカと言えば西部劇のように酒場でバーボンを飲み、中国人はみんなカンフーやってて食堂で喧嘩して、インド人は頭にターバン巻いてカレーを食べる。ブラジル人のお母さんなんてサンバを踊りながら洗濯物を干して……なんて子供の頃は思ってた。
それはまるでアメリカから見た日本が、忍者、侍、芸者、みたいなことと一緒で。
今みたいなネットが普及した時代では考えられないようなほんとの話です。
それはワインの世界でも同じで、僕の中ではまずブルゴーニュ、ボルドーがあって、そこからニューワールドと呼ばれるワインが勢力を伸ばしてきている、という価値観の中でワインに触れてきました。
しかしそこに現れたのが自然派と呼ばれるムーブメント。それは今までの世界をガラッと変えてしまった。
農法や醸造は古典に回帰しているのに、できあがったワインはいままでとはまったく違う世界が生まれたのです。
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東御市和にある温泉施設「湯楽里館」の一角にあるこちらのワイナリー「ツイジラボ」は、東御市農産物直売所ゆらり市の加工施設だった建物を改修したものです。
室外機の上には自社ワインの空き瓶が、玄関のドアを開けると右手にある白い棚の上にはいろんな生産者の空き瓶が並んでいます。
緑色のエポキシ樹脂の床、積み上げられたダンボール、ラベルの貼られてない瓶、ステンレスの無機質なタンク。
そこはまるで小さな食品工場のようで、あるひとつの世界がこれまで誰も描いたことのない描き方でここにあります。
美味しい魚が食べれそうな土地の名を苗字にもつこのワイナリーの代表「築地」さんは、なぜか中学時代の理科の先生と雰囲気が被る。
築地さんのお話はわかりやすく、かつ、そこにはあるひとつの世界がこれまで僕の知らない描き方で描かれていて。
まるで世界中のおいしいワインのいいとこ取りのように見えながら、そこにはいかにも築地さんらしい見事な一貫性が息づいています。
その食品工場のようなワイナリーには、おのずとそうなった自然な流れがあって、お話を聞いてるだけでなぜか僕はうれしく思います。
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造り手が見せるところだけがほの明るく、見えてないところはほの暗い、その陰影に僕達は引き込まれ、その先を見たくなる。
彼の造るワインは今まで数回しか飲んだことはないのだけれど、味わいにまるみや優しさが感じられて、飲み手を自由な気持ちにさせてくれます。
それはけっして該博な知識と卓越した技術だけではできないことで、創意工夫をしながらも造り手がのびやかな気持ちで、まず自分たち自身が愉しみながらわれわれ飲み手をもてなしてくれるからでしょう。
彼の造るワインを買ってじっくりと飲みたいと思ったのですが、ツイジラボのワインは人気があって生産量も少ないため、リリースと同時に売り切れることも多いです。
そんなワインを手にした方はラッキーですね。
僕もまた見かけたら迷わず買おうと思います。
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