フランス料理の食材の中でフォアグラほど魔術的で、人々を魅了してきた食材は他にはありません。
飼育法、品質、鮮度、調理法。
これらのすべてが最高レベルで結びついたとき、フォアグラは、お皿の上の夢に変わります。
まるで魔法にかけられたように…。
古代ローマ時代の詩人、ホラティウスは、フォアグラを、まさに芸術、と賞賛しました。
フォアグラには鵞鳥のフォアグラと、鴨のフォアグラの、二種類あります。
鵞鳥のフォアグラは融点が低く、口に含むとフワっと溶けて、やさしい味わいなのに対し、
鴨のフォアグラは、トロっとなめらかで、
深く、コクのある濃厚な味わいが特徴です。
僕が、この料理のために選んだのは、フランス、ランド村で最高のフォアグラを飼育している、
【ジャンダニエル・キャスタン氏】の鴨のフォアグラ。
フォアグラと言うと、ピューレにしたトウモロコシを、
機械で無理やり流し込んで太らせると
思うでしょうが、彼の育てるフォアグラはまったく違います。
鴨を自由に放し飼いにし、
グランマイスという特別な大粒のとうもろこしを、一羽一羽、
人の手で丁寧に与えます。
キャスタン氏の鴨は、野原を駆け巡り大粒のとうもろこしを噛むことで健康的に育ちます。
そのためフォアグラになるまで普通の倍くらい日数がかかるのです。
そうやって育てられたフォアグラの中かから、
最高品質のもののみ選び出され、
鮮度が保たれたまま、フレッシュの状態で、空輸で日本に運ばれます。
僕は、修行中、
フォアグラに魅了され、挑戦心をかきたてられました。
そして、フォアグラを最高のレベルで調理するために、
自分の調理技術を高めてきました。
なにしろフォアグラはデリケートで扱いにくく、
加熱するとどんどん脂が溶け出してしまうので
調理するには充分な注意と技術、明快な方針が必要で、それは一朝一夕で身につくものでは
ありません。そして、何年もの月日を経て、
僕の理想のフォアグラの形が生まれたのです。
「フォアグラのポワレ、シェリーヴィネガーソース」
どうぞ、僕のこの料理をお召し上がりください。
ふつうならば堅めのフロマージュのようなフォアグラを
僕は、外側の輪郭だけを残し、プリンのように
ぷるんぷるんに仕上げます。
フォアグラ初体験の人はもちろん、フォアグラを
食べなれていらっしゃる方も、ぜひ一度、どうぞ。
仲間の料理人にも、作り方は秘密です。